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音の響きは感情と結びつく?――子どもにも見られた「グリーム・グラム効果」

9月8日
読了時間: 7分


研究からわかったこと
英語を話す5〜7歳の子ども52名と成人105名を対象とした実験では、/iː/を含む無意味語は肯定的な場面に、/ʌ/を含む無意味語は否定的な場面に結びつけられやすい傾向が確認されました。ただし、英語の特定の母音を調べた結果であり、日本語の一音一音の意味や大和言葉の音義を証明した研究ではありません。


意味のない言葉でも、私たちはその響きから「明るそう」「悲しそう」と感じることがあるのでしょうか。


2026年に学術誌『Cognitive Science』で発表された研究では、英語を話す5〜7歳の子どもと成人に、母音だけが異なる無意味語を聞かせました。すると、子どもも大人も、ある母音を含む音を肯定的な場面に、別の母音を含む音を否定的な場面に結びつける傾向を示しました。


音と意味の結びつきを研究する「音象徴」の新しい知見です。


では、この研究から何がわかり、何までは言えないのでしょうか。大和言葉の一音一音に意味を見いだす「音義」との関係も、混同しないように整理します。



まず、二つの音を想像してみてください


「zeem」と「zum」。

どちらにも辞書的な意味はありません。けれども、二つのうち一方を「うれしそうな場面」、もう一方を「悲しそうな場面」に結びつけるとしたら、あなたはどちらを選ぶでしょうか。


英語では、gleam は「きらめき」、glum は「浮かない、ふさぎ込んだ」という意味を持ちます。この二語に代表されるように、/iː/(「イー」に近い音)を含む語は比較的肯定的に、/ʌ/(英語の cup に含まれる母音)を含む語は比較的否定的に受け取られやすいという傾向が報告されてきました。


これを「グリーム・グラム効果(gleam–glum effect)」と呼びます。


ただし、実在する英単語には、すでに意味があります。gleam が明るく感じられるのは「きらめき」という意味を知っているからではないか、という疑問が残ります。


そこで今回の研究では、意味を持たない新しい言葉が使われました。



子どもと大人、合計157名を調べた実験


研究を行ったのは、アリゾナ州立大学などの研究チームです。対象となったのは、米国英語を使う次の参加者でした。


  • 5〜7歳の子ども:52名

  • 18〜25歳の成人:105名


参加者には、「zeem/zum」「cleem/clum」など、母音だけが異なる32組の無意味語が音声で提示されました。


画面には、同じキャラクターが登場する二つの絵が示されます。一方は喜びなどを表す肯定的な場面、もう一方は悲しみなどを表す否定的な場面です。参加者は、聞いた無意味語がどちらの場面に合うと思うかを選びました。


研究は事前登録され、参加者と刺激の違いを考慮した統計分析が行われています。また、使用した音声と画像も公開されています。



子どもも大人も、音から感情の方向を読み取った


予測に合う選択、すなわち、


  • /iː/ を含む無意味語を肯定的な場面へ

  • /ʌ/ を含む無意味語を否定的な場面へ


結びつけた割合は、次のとおりでした。


  • 子ども:約60%

  • 成人:約75%


どちらも、偶然に選んだ場合の50%を統計的に上回りました。


子どもには肯定的な絵を選びやすい傾向があり、成人には否定的な絵をやや選びやすい傾向がありました。しかし、こうした選択の偏りを調整した追加分析でも、グリーム・グラム効果は残りました。


つまり、参加者は言葉の意味を知らない状態でも、母音の違いを感情的な印象の手がかりとして使っていたと考えられます。


これまでの音象徴研究では、「ブーバは丸い」「キキは尖っている」といった、音と形・大きさなどの物理的特徴との結びつきがよく知られてきました。今回注目されるのは、子どもが音を「肯定的か、否定的か」という、より抽象的な感情の方向と結びつけた点です。



なぜ、音に感情の違いを感じるのでしょうか


この研究だけで、仕組みが一つに決まったわけではありません。研究者たちは、いくつかの可能性を挙げています。


一つは、発音するときの口や顔の動きです。


/iː/ を発音するときは、口角が左右に広がり、ほほ笑みに近い形になります。一方、/ʌ/ を発音するときは、口の中央をやや開く発音になります。音を生み出す身体の動きと、感情を表す顔の動きが一部重なることが、印象に関係している可能性があります。


もう一つは、言語経験です。

英語の語彙には、/iː/ を含む語の方が平均的にやや肯定的、/ʌ/ を含む語の方がやや否定的に評価される傾向があるとする先行研究があります。今回、成人の効果が子どもより強かったことは、英語を聞き、話す経験の蓄積が音と感情の結びつきを強めた可能性と整合します。


ただし、成人と子どもの差には、注意力や記憶力、課題の解き方の違いも関係し得ます。「年齢とともに必ず強くなる」と結論づけることはできません。実際、5〜7歳の子どもの範囲内では、年齢と効果の強さに明確な相関は確認されませんでした。



音義と音象徴は、同じものなのでしょうか


ここは、この研究を大和言葉と結びつけて考えるうえで、もっとも大切なところです。


音象徴とは、音の特徴と、形・大きさ・動き・感情などの印象との間に、一定の対応が見られる現象です。今回の研究が調べたのも、その一例です。


一方、大和言葉の「音義」は、日本語の一音一音について、発声の仕組み、身体の働き、耳に届く響き、そして、その音を含む言葉に繰り返し現れる意味を重ねながら、本質的な働きを読み解くものです。


両者には、「音は意味とまったく無関係なのだろうか」という問いを共有する部分があります。しかし、同じものではありません。


今回の研究から科学的に言えるのは、米国英語を使う参加者が、特定の二つの英語母音を、肯定的・否定的な場面と結びつける傾向を示した、ということです。


この結果だけで、

  • 日本語の一音一音に固有の意味がある

  • 大和言葉の音義体系が科学的に証明された

  • 名前の音から性格や運命が決まる

  • 特定の音を聞けば感情や身体が必ず変化する

とは言えません。


科学的な音象徴研究と、大和言葉を読み解く音義は、重なる問いを持ちながらも、それぞれの方法と範囲を区別して紹介する必要があります。



英語の結果を、日本語の「い」「う」に置き換えてはいけない


もう一つ注意したいのは、研究で使われた英語の母音と日本語の母音は同じではないことです。


英語の /iː/ は日本語の「い」に近い部分がありますが、発音の長さや口の使い方まで完全に同じではありません。/ʌ/ は、しばしば日本語で「ア」や「ウ」のように表記されますが、日本語の「あ」「う」のどちらとも異なる音です。


したがって、この研究を根拠に「日本語の『い』は肯定的な音で、『う』は否定的な音だ」と説明するのは誤りです。


また、研究が測ったのは、絵と音を対応させる判断です。参加者が実際に幸福や悲しみを感じたか、心拍や脳活動が変化したかを測った研究でもありません。



それでも、この研究が教えてくれること


この研究の価値は、「音には不思議な力がある」と証明したことではありません。

私たちが言葉を受け取るとき、辞書に書かれた意味だけを処理しているのではない可能性を、統制された実験で示したことにあります。


言葉は、文字になる前に音です。


音は、息が流れ、声帯が震え、舌や唇、あごが動くことで生まれます。その身体の動きによって響きが変わり、聞く側にも異なる印象を手渡します。しかも、その印象は言語経験や文化の中で育っていく可能性があります。


だから、同じ内容であっても、どの言葉を選び、どのような声で語るかによって、届き方は変わります。名前もまた、紙に書かれた文字であるだけでなく、誰かの口から発せられ、何度も自分に届いてきた音です。


音だけで人のすべてが決まるわけではありません。それでも、音の響きは、意味を受け取るための小さな手がかりの一つになっているのかもしれません。



音義を考えるために、科学が差し出す一つの補助線


現代の研究は、音と意味の結びつきが、単なる思い込みとして片づけられない場合があることを少しずつ明らかにしています。


ただし、科学が確かめているのは、特定の条件のもとで観察された傾向です。そこから大和言葉の音義全体を直接導くことはできません。


科学的な知見と、長く受け継がれてきた言葉の見方を混同せず、かといって最初から無関係と決めつけることもしない。その間に問いを置き、丁寧に考えていくことが大切だと思います。


意味を持たない音にも、私たちは感情の方向を感じることがある。

その小さな事実は、日々口にする言葉や、自分が何度も呼ばれてきた名前の響きを、あらためて聞き直す入口になるのではないでしょうか。



この研究について


Li, Y., Yu, C. S.-P., McBeath, M. K., & Benitez, V. L. (2026). “U.S. English-Speaking Children and Adults Exhibit a ‘Gleam-Glum’ Sound Symbolic Effect Linking Phonemic Vowel Sounds With Emotional Valence.” Cognitive Science, 50(4), e70215. 2026年4月29日公開。



本記事は研究内容を一般向けに紹介するものであり、大和言葉の音義そのものを検証した研究ではありません。

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